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働き方改革とは?取り組みで大きく変わった労働に関する10のポイント

働き方改革は、労働環境改善や働き方の多様化を狙う改革です。

2019年4月より順次施行されており、2022年現在も各企業で様々な工夫がなされています。

最近では、大手企業NTTグループが斬新な勤務形態を発表し、話題になりました。

従業員の働き方を原則、テレワークにする方針を打ち出していたNTTは、来月から制度を見直し、勤務場所は自宅を基本とし、出社する場合は「出張扱い」にするという新たなルールを導入します。働き方を抜本的に変える巨大企業グループの動きはほかの企業にも影響を与えそうです。
引用:「勤務場所は自宅」「飛行機で出社OK」NTTが来月から新ルール|NHK

働き方改革の概要や目的、改革によってどのような変化がもたらされたのかを詳しく紹介します。

目次

働き方改革とは何か?多様な働き方を選べる一億総活躍社会への第一歩

働き方改革とは、より多くの人が働きやすい社会を目指す改革です。

現在の日本は、労働人口の減少やライフステージに合わない働き方など、労働に関する多くの問題を抱えています。

一億総活躍社会を実現するためには、様々な事情で働けていない人も、働きやすい環境を整えなければなりません。

一億総活躍社会とは?

男性や女性、若者からお年寄り、障害や難病がある人も、日本国民全員が生きがいを感じられる社会のこと。
平成29年11月17日の国会において、安倍内閣総理大臣(当時)が演説を行いました。

参照:一億総活躍社会の実現|首相官邸

総務省の労働力調査によると、休業者のうち54%が、育児や介護・看護を休業理由に挙げています。

特に、女性で休業した人のうち育児目的は62%です。
参照:休業の理由別休業者数 |総務省統計局

働きたくて、働ける健康状態であるにも関わらず、育児や介護を理由にやむを得ず労働を諦めている人は少なくありません。

働き方改革の具体的な施策は、労働環境を改善する法律や制度の整備です。

数年前、「労働者は必ず年に5日間有給休暇を取得しなければならない」と義務付けられ、話題になりました。

有給休暇の取得義務も、働き方改革の1つです。

働き方改革が提唱された背景3つ!日本が抱える労働力不足と労働環境問題

働き方改革が提唱された背景は、大きく分けて3つあります。

働き方改革の背景

  • 労働生産性、GDPの低下
  • 労働人口の不足
  • 長時間労働や過労死

いずれも、日本が抱えている労働に関する問題です。

日本は国際的に見ても労働生産性が低く経済的な豊かさも足りない

日本は、他国と比較すると労働生産性が低いです。

労働生産性とは、労働者が生み出す成果を数値化したもの。

労働生産性が高いと、労働者が効率よく業務できており、国を豊かにできる能力が高いと判断できます。

日本生産性本部の調査によると、日本の労働生産性は以下の通りです。

金額換算 OECD加盟国との比較
1人あたりの労働生産性 49.5ドル
(5,086円)
23位/38カ国中
1時間あたりの労働生産性 78,655ドル
(809万円)
28位/38カ国中

日本の労働生産性は国際的に見ても低く、主要7カ国の中でも最下位です。

つまり、日本は他国と比較しても労働で生み出せる価値が低いと言えます。

さらに日本のGDPは、OECDに加盟している38カ国のうち23位です。

GDPとは?

GDPとは、国内総生産を指します。
一定期間内に算出された付加価値の総額を示すものです。

GDPは「経済的な豊かさ」を示す際に用いる数値なので、日本の経済的な豊かさは38カ国中23位とされています。

1990年代には一時5位まで上昇したものの、2000年~2021年にかけてゆるやかに下降。

特に2020年はコロナウイルスの影響で、前年よりGDPが4%減少しました。

現在は主要7カ国の中でも最下位の状態が続き、早急な改善が求められています。

GDPや労働生産性を改善するためには、労働者を増やし、かつ労働者1人の業務効率を上げなければなりません。

参照:労働生産性の国際比較2021|日本生産性本部

少子高齢化やライフステージにそぐわない労働環境で労働力人口が不足している

日本は現在、深刻な労働力人口不足に悩まされています。

労働力人口とは?

15歳以上のうち、就業者・休業者・失業者を合わせた数です。

2021年の労働力人口は平均6,860万人で、前年度から8万人減少しています。

労働力人口は、2019年から2年連続で減少。

労働力人口の推移のグラフ
引用:労働力調査(基本集計)|総務省統計局

労働者が減っているので、労働生産性やGDPも相対的に減少しています。

労働力人口が減少している原因は、大きく分けて2つです。

  • 少子高齢化で労働力人口が減っている
  • 勤務形態や雇用条件が厳しく、子育てや介護と両立しにくい
少子高齢化で労働力人口が減っている

日本の労働力減少は、少子高齢化が大きな原因です。

日本の人口推移

2022年 2065年(40年後)
19歳以下の人口 16% 14%
20~64歳の人口 54% 48%
65歳以上の人口 29% 38%

参照:日本の少子高齢化はどのように進んでいるのか|財務省

労働の主力を担う20~64歳の人口は現在54%ですが、40年後には6%減少すると言われています。

2045年には、1.4人の労働力人口が高齢者1人を支えなければならない見込みです。

労働生産性を上昇させるために行える対策は以下の2つ。

  • 少子高齢化を可能な限り食い止める
  • 65歳以上の希望者を労働者として迎え入れる

一億総活躍社会では将来的に、労働を希望する高齢者に仕事を与え、労働力として迎え入れる想定です。

参照:リスクに備えるための生活設計|生命保険文化センター

勤務形態や雇用条件が厳しく、子育てや介護と両立しにくい

労働環境がライフステージにそぐわない点も、労働力人口の減少に影響しています。

現在の日本では、勤務開始時間・終了時間を一律に定めている企業が多いです。

例えば、9時~18時で勤務が固定されている場合、必ず勤務時間に合わせて出勤しなければなりません。

子育てや介護・看護で変則的に生活しなければならない人は、勤務時間が固定された正規雇用の仕事に就きにくいです。

自由な勤務を推奨するフレックスタイム制は、自分の都合に合わせて勤務時間を決められます。

しかし、フレックスタイム制を導入している企業は、わずか5.6%しかありません。

導入を検討している企業も9.1%にとどまり、90%近い企業がフレックスタイム制を検討していないと分かっています。

子育てや介護の都合で職場と勤務時間が合わず、退職を余儀なくされる人も少なくありません。

働く意志があっても働けない人に職場復帰してもらうためには、多様なニーズに合わせた働き方を用意する必要があります。

在宅勤務やフレックスタイム制といった、勤務形態の多様化が急がれます。

長時間労働や過労死が他国からも指摘されている

労働問題の中でも特に大きいのが、長時間労働や過労死です。

日本の過労死は国外からも問題視されており、2013年には国連の社会権規約委員会が、長時間労働や過労死の防止対策を強化するよう勧告しています。

参照:「日本は過労死対策を」 国連委員会が政府に初勧告|日本経済新聞

企業における長期休業者に関する実態調査では、30日以上の長期休業者のうち、68%がメンタル疾患を理由に休業していると分かりました。

長時間労働や上司からのパワハラ、セクハラを理由にやむを得ず休職・退職する人は少なくありません。

過労死に至らずとも、劣悪な労働環境が原因で労働生産性が減少していると考えられます。

労働者が働きやすく感じ、休業や過労死に至らないためには、労働環境を根本から見直さなければなりません。

多くの労働者が働きやすい環境を作る働き方改革の目的3つ

日本が抱える労働問題を踏まえ、働き方改革が掲げる目的は主に3つです。

  • 労働時間を見直して長時間労働を防ぐ
  • 正規、非正規雇用の格差を解消する
  • 働き方の多様化を目指す

長時間労働を防ぐために労働時間を見直し改善する

1つ目の目的は、労働時間の見直しです。

過労死やメンタル疾患を引き起こす長時間労働は、過剰な残業が悪影響を与えていました。

働き方改革が実施される以前は、従業員に長時間の残業を強いても、雇用者への罰則がありません。

必要以上の残業を「美徳」とする社風もあり、意識改革が急がれています。

働き方改革以前の残業は「36協定」と呼ばれる労使協定書をもとに行われています。

36協定による残業の基準は以下の通り。

  • 1ヶ月45時間以内
  • 1年360時間以内

残業は、上記の時間以内でなければならない

しかし、「特別条項」という条件を加えると、残業時間の延長が可能です。

特別条項は残業の上限時間が決められておらず、実質無制限で残業できる状態でした。

働き方改革はこうしたルールの穴を埋め、長時間労働を防ぐ目的で施行されています。

正規・非正規雇用で起きる雇用形態間の格差を解消する

働き方改革2つ目の目的は、雇用形態による格差の解消です。

一口に「労働者」と言っても、雇用形態によって大きく2つに分けられます。

雇用の状態
正規雇用 フルタイム勤務で雇用期間に制限がない雇用形態。
いわゆる正社員。
非正規雇用 正規雇用以外すべての雇用形態。
勤務時間がまばらで、雇用期間に制限があるケースも。
いわゆる、派遣社員・契約社員・臨時社員・パート・アルバイトなど。

過去、雇用形態による待遇格差が問題となっていました。

特に大きな格差が現れているのは給与です。

正規雇用社と非正規雇用社の給与の違い
引用:労働法制の動向|厚生労働省

正規雇用者の収入は300~500万円付近が多いのに対し、非正規雇用者は150~200万円ほど。

パートやアルバイトはさらに低く、50~100万円程度です。

正社員と変わらない仕事を任され、フルタイムで働いている派遣社員や契約社員でも、正社員より収入が低い傾向でした。

収入面だけでなく、福利厚生も正規雇用と非正規雇用で大きな差があります。

福利厚生 正規雇用 非正規雇用
雇用保険 99.2% 60.0%
退職金制度 78.0% 10.6%
賞与支給制度 84.6% 34.0%
福利厚生施設の利用 50.2% 22.7%

正規雇用者が受けられる福利厚生を、非正規雇用者が受けられないのは珍しくありません。

働き方改革では、雇用形態の違いによる待遇格差の解消を目標としています。

子育てや介護と両立しやすい働き方の多様化を目指す

働き方改革3つ目の目的は、働き方の多様化促進です。

働き方の多様化とは、様々な生活環境の人が働ける労働環境を整えること。

例えば、「働く」と言ったら決まった時間に職場へ行き、決まった時間まで働くイメージが強いでしょう。

しかし、子育てや介護・看護をしている人は、「決まった時間に働きに行く」のが難しいケースもあります。

20代女性

25歳で出産しましたが、保育園が見つからず職場復帰できません。
Webに関する仕事なので、家でも作業できるのですが…。在宅勤務がない職場で、勤務先に行くしかありませんが、子どもを置いていけないので仕事は諦めています。

50代女性

80代の母を介護しています。つきっきりではなく自分の時間もあるのでできれば稼ぎたいのですが、家でできる仕事はなかなかありません。

30代男性

病気の関係で、8時間ずっと座っての勤務が難しいです。時々体を動かしたり、休息を取れればいいのですが、社内はそういう雰囲気ではなく…。結局体が耐えきれず、退職してしまいました。

在宅勤務やフレックスタイム制といった多様な勤務形態が主流になれば、労働力人口を増やせます。

SNSを見ていると、以下のような書き込みもありました。

子どもの急病で早退する日が多く、上司や同僚に白い目で見られる…。遠回しに退職した方がいいんじゃないかと言われて、心が折れそうです。

子どもが熱を出したから会社を休んだら、翌日50代の先輩に「私の時は子育て中に働いたりしなかった」とチクチク言われて悲しい。今と昔は違うんだから、働きたいんだよ。

社会全体で、多様な働き方を認め、当たり前にしていく、社内の意識改革も必要です。

働き方改革で大きく変わった労働に関する10のポイント

働き方改革では、すべて合わせて10の施策が行われました。

  • 残業時間の上限規制と罰則導入
  • 勤務間インターバル導入
  • 有給休暇の取得を義務化
  • 残業の割増賃金率を上昇
  • 労働時間を客観的に把握する
  • フレックスタイム制の精算期間延長
  • 高度プロフェッショナル制度の導入
  • 産業医や産業保健昨日の強化
  • 同一労働、同一賃金
  • 待遇差の説明をパート、アルバイトへも義務化

それぞれの施策は2019年4月から現在に至るまで、段階的に施行されています。

大企業・中小企業で施行時期も違い、まだ施行されていない施策もあります。

長時間労働を防ぐ残業時間の上限規制と罰則を導入

働き方改革によって、残業時間の上限規制が厳しくなりました。

残業時間の原則

  • 1ヶ月:45時間以内
  • 1年間:360時間以内

臨時的な特別な事情があった場合

  • 1年間:720時間以内
  • 複数月平均:80時間以内
  • 1ヶ月:100時間未満(休日労働を含む)

今までも、36協定に「特別条項」を加えれば実質無制限に残業が可能でした。

しかし、働き方改革以降は特別な事情があっても、残業時間に上限が設けられます。

OKな例

毎月の残業時間が50時間ずつ、12ヶ月間のケース

  • 1年間:600時間   →OK
  • 複数月平均:50時間 →OK
  • 1ヶ月:100時間未満 →OK

奇数月は残業0時間、偶数月は残業85時間のケース

  • 1年間:510時間   →OK
  • 複数月平均:42.5時間→OK
  • 1ヶ月:100時間未満 →OK

NGな例

毎月の残業は20時間だが、3月だけ残業100時間のケース

  • 1年間:320時間   →OK
  • 複数月平均:26.6時間 →OK
  • 1ヶ月:100時間未満 →NG

臨時的な残業においては、3つのうち1つの条件でも満たせなかった場合は違反です。

定められた残業時間を超過した場合、雇用者に刑事罰が課せられます。

施行年月日

大企業:2019年4月1日~
中小企業:2020年4月1日~

※ただし、自動車運転業務、建設事業、医師、鹿児島県および沖縄県の砂糖製造業は施行5年後に適用。新技術・新商品の開発業務には上限を適用しません。

十分な休息が取れるよう勤務間インターバル導入を促進

働き方改革では、勤務間インターバルの導入を促進しています。

勤務間インターバルとは、退勤から翌日の出勤まで、必ず一定時間以上の休息を取る制度です。

例えば勤務間インターバルが12時間の会社で、9時~18時勤務の人が23時まで働いたとします。

本来翌日の勤務も9時からですが、11時までは勤務間インターバルを取らなければなりません。

そのため、翌日の出勤は早くても11時から8時間となります。

本来出勤している予定の9時~11時までを働いたとみなし、定時の18時で退社させる勤務も可能です。

勤務間インターバルがあれば、長時間の残業を避けられるだけでなく、労働者が十分な休息を取りやすいでしょう。

勤務間インターバルは現在「努力義務」なので、導入は会社ごとに任意です。

施行年月日

大企業:2019年4月1日~
中小企業:2019年4月1日~

年に5日以上必ず有給休暇を取得する義務

働き方改革では、労働者に対して年間5日以上の有給取得を企業に義務付けています。

働き方改革以前の有給休暇

  1. 労働者が雇用者に有給休暇の取得を申し出る
  2. 雇用者が申し出に応じ、有給休暇が成立

働き方改革以前は、労働者が申し出なければ有給休暇を利用できませんでした。

しかし、「職場の雰囲気で申し出しにくい」「希望しても却下された」など思うように取得できなかった人も多いです。

働き方改革以前の有給休暇取得率は51.1%で、労働者のうち半数が有給休暇を取得できませんでした。

働き方改革後の有給休暇

  1. 雇用者が労働者に有給休暇の取得希望日を聴取
  2. 労働者は雇用者に希望日を申し出る
  3. 雇用者は労働者の希望を踏まえ、有給休暇の取得日を指定

働き方改革後は、雇用者が労働者に有給休暇の希望日を確認しなければなりません。

労働者の希望日だけでは5日に満たない場合、雇用者が有給休暇を取得させる必要があります。

有給休暇が必ず取得できれば、労働者も休息を取りやすくなり、労働環境の改善が見込めます。

  • 労働者の希望時期に有給休暇を取らせない
  • 有給休暇が年5日未満しか取れない

上記のように有給休暇が取得されなかった時は、雇用者が罰則を与えられる可能性があります。

施行年月日

大企業:2019年4月1日~
中小企業:2019年4月1日~

1ヶ月に60時間を超える残業の割増賃金率を引き上げる

働き方改革によって、中小企業の残業割増賃金率が50%に上昇しています。

過去、1ヶ月に60時間を超えた残業につけられる割増賃金率は以下の通りでした。

企業規模 割増賃金率
大企業 50%
中小企業 25%

つまり、同じ時間残業をしても、所属する企業の規模で収入に差がありました。

例えば大企業で働いている、時給1,000円の人が残業すると、残業時の給料は1,500円。

しかし、中小企業で時給1,000円の人が残業しても、1,250円しかもらえません。

中小企業の割増賃金率を50%に上昇し、企業規模による給料の格差を縮めます。

割増賃金率の上昇は2023年からの施策で、現在はまだ適用されていません。

施行年月日

大企業:-
中小企業:2023年4月1日~

長時間労働が慢性化しないか労働時間を客観的に把握する義務

働き方改革により、労働契約の内容に関わらずすべての労働者に対して、労働時間の客観的な把握が義務付けられました。

従来の労働時間把握義務 対象者に指定なし
※裁量労働制や管理監督者は労働時間をチェックされなかった
現在の労働時間把握義務 すべての人に対して労働時間を客観的に把握する義務がある

「労働時間の客観的な把握」とは、誰がどれくらいの時間働いたか、当事者以外が確認する行為です。

例えば毎日2時間以上の残業を強いられている人がいるとします。

上司に「残業は付けず定時で帰ったことにしろ」と不当な指示を受けると、本来働いた分の労働時間がもみ消されます。

このような不正を防ぐため、社内の第三者が労働時間を客観的に把握しなければなりません。

働き方改革以前は、労働時間の把握を行う対象者が明記されていませんでした。

以前は見逃されていた裁量労働制や管理監督者も、労働時間把握の対象に変更されています。

施行年月日

大企業:2019年4月1日~
中小企業:2019年4月1日~

働きやすさを促進するためフレックスタイム制の精算期間を延長する

働き方改革で、フレックスタイム制の精算期間が3ヶ月間に延長されました。

フレックスタイム制の精算期間とは、フレックスタイム制を利用したときに生まれた勤務時間の差異を調整できる期間です。

働き方改革以前は、フレックスタイム制の精算期間は1ヶ月のみでした。

例えば、精算期間が1ヶ月の場合、6月に発生した労働期間の過不足を、翌月の7月に持ち越して精算できません。

しかし精算期間が3ヶ月だと、6月の過不足を7月に持ち越して精算可能です。

より柔軟に勤務時間を調整できるため、ライフスタイルに合わせた幅広い働き方を選べます。

なお、1ヶ月を超えて精算する場合は、労働基準監督署に届け出る必要があります。

施行年月日

大企業:2019年4月1日~
中小企業:2019年4月1日~

労働生産性向上のため高度プロフェッショナル制度を導入する

働き方改革では、労働生産性が損なわれないよう、高度プロフェッショナル制度を導入しました。

高度プロフェッショナル制度とは、高い専門知識が必要な労働者に対して、労働時間や残業割増賃金を適用しない制度です。

高度プロフェッショナル制度を簡単に言うと?

仕事柄、長時間働くと労働生産性が上がる専門職に就いている人が対象。

例えば製薬企業で新しい薬を開発する研究者が、物質の探索や合成を行うとき。
本来定められた労働時間を超えて働いた方が、効率よく研究を進められるなら、高度プロフェッショナル制度が適用されます。

研究が長引いて深夜まで仕事をする研究者が、労働時間の規定に縛られず研究を続けられるメリットがあります。

高度プロフェッショナル制度が適用される対象者は以下の通り。

  • 雇用者と労働者の合意に基づき、職務内容が明確に定められている
  • 雇用者から支払われる年収が、少なくとも1,075万円以上ある
  • 高度プロフェッショナル制度を適用する業務以外の業務を、常態として従事していない

薬の開発をするために高度プロフェッショナル制度を適用する場合、研究者が作業に合意しており、年収1,075万円以上でなければなりません。

また、研究業務以外の営業や事務作業を任されていないことが条件です。

施行年月日

大企業:2019年4月1日~
中小企業:2019年4月1日~

労働者が健康的に働けるよう産業医や産業保健機能を強化する

労働者が働きやすいよう、産業医や産業保健機能の強化も行われました。

産業医や産業保健機能に関する、具体的な取り組みは以下の通りです。

  • 事業者から産業医への情報提供を強化する
  • 産業医や衛生委員会の関係を強化する
  • 労働者の、産業医に対する健康相談を強化する
  • 労働者の健康情報を適切に取り扱う

労働者の健康状態を把握するため、業務の内容や勤務状況を産業医に提供しなければなりません。

労働者が産業医に相談しやすいよう、産業医との連携強化や労働者への案内を含め、体制整備を進める必要があります。

働き方改革により、産業医と労働者の関係が近くなり、健康状態を把握しやすくなりました。

施行年月日

大企業:大企業:2019年4月1日~
中小企業:2019年4月1日~

雇用形態による待遇差を禁止する同一労働・同一賃金

雇用形態による待遇差がなくなるよう、同一労働・同一賃金が採用されました。

同一労働・同一賃金とは、同じレベルの仕事をしている人に対して、雇用形態に限らず同じ待遇をしなければならない制度です。

以前は、同じくらいの能力があっても、正社員と正社員以外の雇用形態で大きな待遇差がありました。

待遇差の例(営業職のケース)

Aさん Bさん
雇用形態 正社員 契約社員
勤務時間 週5日フルタイム 週5日フルタイム
1ヶ月の契約数 20件 19件
1ヶ月の売上 100万円 110万円
1ヶ月の給与 25万円 20万円
賞与の有無 あり(3ヶ月分) なし

AさんとBさんはほぼ同じ能力があり、会社に与える利益も大きな差がありません。

しかし、正社員であるAさんは給料が高く賞与ありなのに対し、派遣社員であるBさんは収入が劣ります。

働き方改革では、AさんとBさんの待遇を同じにしなければなりません。

雇用形態による待遇差を排除し、多くの人が働きやすい環境を目指します。

施行年月日

大企業:2020年4月1日~
中小企業:2021年4月1日~

待遇差がある場合の待遇に関する説明をパート・アルバイトにも義務化

今後、非正規雇用者は正社員との待遇差について、雇用者に説明を求められます。

働き方改革前、有期雇用者に対する待遇差についての説明義務はありませんでした。

有期雇用者とは?

パートやアルバイトなど、雇用期間が無期限でない非正規雇用者

働き方改革により、有期雇用者にも待遇差の説明義務が設けられました。

不当な待遇差を感じた場合。説明を求めて改善の足がかりにできる可能性が高いです。

施行年月日

大企業:2020年4月1日~
中小企業:2021年4月1日~

働き方改革の実施によって起こった新たな問題やデメリット

働き方改革を進める中で、新たな課題やデメリットが見つかっています。

働き方改革によるデメリットや課題点は以下の4つです。

  • 残業の規制で作業が遅れ、利益の獲得が遅くなる
  • 今まで不要だった業務効率化が求められる
  • 残業代で給料を上げていた人は言及される
  • 時短ハラスメントが増えている

今後は働き方改革を推進しつつも、課題の改善に取り組まなければなりません。

残業時間の規制により作業が遅くなり利益の獲得が後ろ倒しになる

残業時間が短くなったため、業務の進捗が遅れやすいです。

作業が遅れる例

【今までの作業進捗】
1日の作業時間:8時間+残業5時間=13時間
業務完了までの期間:13時間×10日間=130時間

【働き方改革後の作業進捗】
1日の作業時間:8時間+残業2時間=10時間
業務完了までの期間:13時間×13日間=130時間

上記の例をもとに考えると、残業時間を減らしたために、作業時間が3日伸びています。

作業が遅れると、売上を獲得する機会損失に繋がりかねません。

今まで不要だった業務効率化が求められ必要以上の負荷がかかる

勤務時間を減らして起こる作業の遅れを防ぐため、今までになかった業務効率化が求められます。

業務効率化を行うための課題は以下の通りです。

  • 効率化できるシステムの開発が必要
  • システムを開発する場合の人件費と経費が必要
  • 以前まで担当していなかった仕事を割り振るための人事育成期間が必要

業務効率化を目指して新たなシステムを開発する場合、開発費用がかかります。

エンジニアは従来の仕事に加え、システム開発も行うため業務負担が増える可能性も。

業務を分担する場合、効率よく仕事をするために育成期間が必要です。

担当者は自分の仕事だけでなく、部下の育成にも時間をかけなければなりません。

残業代で給料を上げていた人は減給される

残業が少なくなると、残業代で給料をまかなっていた人は減給されてしまいます。

減給の例

【働き方改革以前】
基本給:18万円
残業代:12万円
合計:30万円

【働き方改革後】
基本給:18万円
残業代:6万円
合計:24万円

残業時間が半減すると心身の負担は減らせますが、収入が大きく減るリスクも。

SNSでは、残業が減ったために収入が減った人の書き込みが多く見られました。

残業代に依存するのではなく、残業代がなくても納得できる給与形態に変化させていく必要があります。

業務効率化の監視や定時退社を強要する「時短ハラスメント」が増える

働き方改革で勤務時間や職場環境が変わったため、時短ハラスメントも問題化しています。

時短ハラスメント(ジタハラ)とは?

業務量や職場環境を改善せず「残業を禁止する」「定時退社を強制する」「業務効率化を強いる」など労働者に負担をかける行為。

残業せず定時退社した上で、今までと同じ業務効率を維持するには、会社側の改革も必要です。

労働者の負担を減らせる工夫は以下の通り。

  • 雇用を増やす
  • 効率化できるシステムを開発、導入する
  • 不要な会議や時間の無駄となる業務をなくす

上記の工夫を行わず、従業員に残業を禁止すれば、業務効率が落ちる可能性が高いです。

業務効率の低下に対し、具体的な解決策もなく業務効率化を求めるのも、時短ハラスメントに該当します。

時短ハラスメントは働き方改革以前から問題視されており、時短ハラスメントが原因で自殺者も出ていました。

「仕事は早く終わらせろ、でも従業員は早く帰せと言われる。どうすればいいんだ」。うつ病で2016年12月に自殺し、労災認定された自動車販売会社の男性店長(当時48歳)は、妻にそうこぼしたという。私を殺したのは会社--という書き置きも残していた。
引用:「時短ハラスメント」拡大の恐れ|毎日新聞

ジタハラを起こさないためにも、雇用者は以下の点に注意しなければなりません。

  • 残業を禁止にするなら、残業があった期間より作業が遅れると理解する
  • 残業を禁止にしても作業効率をキープするなら、人事やシステムの見直しが必須
  • 作業内容と作業にかかる時間を正しく理解する

ジタハラを受けていると感じる人は、話しやすい上司または産業医に相談しましょう。

雇用側はどのように働き方改革を進めていくべき?無理のない範囲でできる具体例

雇用者は、働き方改革を無理に進めてはなりません。

働き方改革を一気に進めると、むしろ従業員の負担が増え、ハラスメントになる可能性があるからです。

働き方改革を行う時のポイントは以下の3つ。

  • 経営陣や上司の独りよがりにならない
  • 効率化の初期投資は積極的に行う
  • 福利厚生の改善を無理のない範囲で行う
経営陣や上司の独りよがりにならない

働き方改革は、主導する担当者の独りよがりにしないでください。

働き方改革の目的は、すべての労働者が働きやすい環境を作り、労働生産性を上げることです。

「働き方改革をする」行為自体が目的とならないよう、労働者の意見も必ず取り入れましょう。

定期的にフィードバックを実施し、労働者に負担をかけていないか確認してください。

効率化の初期投資は積極的に行う

業務効率化にあたり、システム開発や新たな雇用が必要なら、積極的に投資しましょう。

初期投資を怠らなければ、将来的に大きな効率化に繋がる可能性があります。

福利厚生の改善を無理のない範囲で行う

働き方改革で何をしたらいいか分からないなら、福利厚生の充実から始めましょう。

福利厚生が充実していれば、従業員の負担を減らせます。

業務に対するストレスを軽減できれば、生産性向上を望めるでしょう。

大手企業「味の素」では、特別休暇の取得を認めています。

味の素の特別休暇

ワークバランス休暇、リフレッシュ休暇、ボランティア休暇

趣味や疲労回復目的で休暇を取得できれば、気持ちを切り替えて意欲的に働けます。

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